第6話:偽りの気持ち

 幼なじみなう 第6話:偽りの気持ち

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「さーってお待ちかねのプールの時間だね! 今日もみいちゃんのスク水姿ええですなぁー」
「……えっ、うん」

「あれっ? みいちゃんっていつもこんなんだったっけ?」
「えーと……ん、何でも無いのよ」
「いつも元気なあのみいちゃんが……何かあったの?」

 今はみいちゃんと呼ばれてるけど……中身は普通の男の子の六です。
 僕とみーちゃんが入れ替わってしまってから数日経ちましたが……嘗て無い問題が迫っている気がします。
 みーちゃんのみうちゃんに対する気持ち、そして今朝みうちゃんが放った一言……。

『2人共……ボロ、出ちゃってるよ?』

「だ、大丈夫だからねっ。何でも無いの」

 くーちゃんにはお話できる事じゃないよね……。

「そっかそっか、もし仮に元気無かったとしても、泳いでればきっと元気出てくるよね?」
「うん、だといいけど……」
「じゃあ自由時間はいつものようににゃんにゃんしよっか♪」

 にゃ、にゃんにゃん……みーちゃんとくーちゃんの関係って一体……。

 くーちゃんは僕のおかしい様子に気付いていたようです。
 僕は朝のやり取り以降、ずっと動揺を隠せないままでいました。
 くーちゃんにも心配を掛けてしまっている……あまり良い状況とは言えません。

 放課後みうちゃんはみーちゃんに「お返事するからね」と言っていたけど、どうなってしまうのだろう……。


「今日もプール楽しかったね、みいちゃん♪」
「……(///」

 プールを終えた僕は、胸をドキドキさせながら更衣室でしばらく硬直していました……。
 くーちゃんったら、プールでお構い無しにあんな事やこんな事を……。
 い、いつもみーちゃんと普段からこんな事をやっていたのかな。

 何があったのかは触れないでおきます……早く忘れないと、とても正常を保てる自信がありません。

「ねえねえ、そういえばみいちゃんってさー、胸少し膨らんだ?」
「えっ、む、胸……?」

 くーちゃんにそんな事を言われたものだから、自分の……みーちゃんの身体の胸元についつい目を落としてしまう。

「みいちゃん、何か顔赤いよ?」
「あ、あのね……くーちゃんってば」

「あたし、何か変な事言ったかな?」

 お、女の子同士ならこういうのって普通のやり取りなのかな……。

「あ、くーちゃん、私ちょっとおトイレ行って来るね」
「うん、察してるよ。行ってらっしゃい」

 くーちゃんに勘付かれてる……女の子同士なら、こういうのって普通のやり取りなのかな……。


 もうすっかり慣れてしまった学園の女子トイレ。
 個室へ入った僕は、タンポンを新しいナプキンに取り換える準備をしました。

「ろっくん」

 その時、個室の外から僕を呼ぶ誰かの声がしました。
 ろっくんと呼ばれたので一瞬みーちゃん? と思ってしまいましたが……。

「みうなの?」
「ねえ、ろっくん……」

 僕を呼んだ声は確かにみうちゃんの声でした。
 でも個室の僕に向かって「ろっくん」って呼んでたよね……?
 女子トイレ内だし、僕の姿をしたみーちゃんが一緒に居たとも思えないのです。

「どうしたの? ちょっと待ってね、今出るから」

 僕は慌てて換えのナプキンをポケットにしまって、スカートなどを穿き直しました。
 そして個室の外へと出たのですが……。

「あれっ、居ない……?」

 そこには誰の姿もありませんでした。
 勿論人気が無いので、みうちゃんの姿も一切なく……僕の聞き間違い?
 それともみうちゃんはさっきまでここに居たのだろうか……。

 僕は何だか気になってしまいましたが……とりあえず個室へと戻り、生理の処理を済ませました。


(みうちゃんはさっき来ていたのだろうか……)

 僕の聞き間違えだったのか、それとも本当に来ていたのか……さっきからその事ばかり気になってました。
 もし仮に来ていたとしたならば、すぐみうちゃんが居なくなってしまったのは何故だろう?

「ねえねえろっく……みーちゃん」
「ん、お昼だよね? 行こうか」
「うん」

 これからお昼の時間です。僕とみーちゃんはいつもの購買部へと向かいました。


 いつもの購買部へ行くと……先にみうちゃんの姿がありました。

「あ、みう」

 しかしみうはパンを買ったら、ささっとその場を去ってしまいました。
 一瞬こっちを振り向いていたので、どうやら僕達に気付いて去って行ったようです。
 何だかまるで僕達から逃げるかのような素振りで……その背中はとても寂しい感じに見えて。

「みう……」
「朝の件……みうちゃんはちゃんと放課後、お話してくれるのかな?」
「さあどうだろう……何だか気まずくなってるよね」

「うん、そうだね……ねえ、そういえばさ」
「うん、何?」
「さっきみうちゃんがトイレに来た気がしたのだけれど、外に出てみたら居なくて」
「そうなの? みうったらどうしたんだろうね……?」

「ただ僕の聞き間違えだったのかも分からないけれど」
「みうは今、何を考えて何を思っているのだろう……」

「お昼、食べよっか」
「うん」

 僕達はそれぞれのパンの購入を済ませ、みうちゃん抜きで中庭へと移動しました。


「何だか物足りないね……」
「うん、みうがここに居るのと居ないのではこんなに違うんだね……」

 僕達はいつもの中庭でお昼を食べていましたが、何だか寂しさのような虚しさのような……。
 良く分からない物足りなさの感情がぐるぐるとしていました。
 きっとそれはみーちゃんも同じで、原因は間違いなくそこにみうちゃんが居ない事です。

「みう……ちゃんは、僕達の事に気付いていたんだよね」
「朝の言葉からすれば間違いなさそうだけど……でも信じたくないよ。だってもしそうだったら」
「そうだよね、僕達だけじゃなくて、みうちゃん自身も大変な事になっちゃうかもしれないんだよね」

「みう……どうして、どうして気付いちゃったの……?」

 正直僕はみうちゃんが気付いてしまった原因について、みーちゃん自身の挙動によるボロも原因の一環であると思っていました。

 でもだからってみーちゃんを責めるのは間違っている。
 僕だってもし逆でみーちゃんの立場だったら……きっと戸惑っちゃって無理だよ。
 今は本当にみーちゃんの立場とも言えるのだけれど、やはりどうしても違和感を覚えてしまう。

「……どうにかなるといいけどね」
「うん……未宇さんに相談でもしてみたいけど、無理なのかな」
「未宇ちゃんが出るにはみうちゃんの身体に負担を掛けるそうだし、極力は頼らずにどうにかできれば……」

「「…………」」

 僕達はお互いに黙り込んでしまいました。


 みうちゃんの事が気掛かりで仕方無かったけれど……それでも時間はどんどんと進んで行きます。
 そして残りの授業も終わり、あっと言う間に放課後となってしまいました。

「おにいちゃん」

 みうちゃんは放課後、きちんと教室へと来ました。

「みう……ちゃん」
「来て」
「……うん。ちょっと行って来るね?」

「うん、行ってらっしゃい」

 僕は2人の事が気になってしまい、正直顔から不安を隠せていなかったと思います。
 後はなるようになるしか……どうか2人の関係が壊れてしまわないように願うばかりでした。


「ここは……」
「うん、いつもの中庭だよ」
「誰も人が居ないね」
「意外と放課後はあまり人が来ないんだよ?」
「そうだったんだ」

「さてと……えーと、朝の件なんだけど」
「うん……」
「それは本当の気持ちなの?」
「えーと……うん、みうの事が好き。大好き」

「本当の"おにいちゃんの"気持ちなの?」

「それ、どういう事……」
「みうはね、その気持ちは受け取れないよ。それは嘘の気持ちだもん」
「嘘なんかじゃない。本当にみうの事が大好きで……」

「問題なのは"お兄ちゃんの"気持ちなの?」

「みう……やっぱり、もしかして」
「ごめんね……ごめんね」

「あっ、みう! みうー!」

 みうは涙を零しながら、その場から走り去って行ってしまい。
 みうが言った"お兄ちゃんの"……"ろっくんの"気持ち。
 その言い様は何だか私の姿がろっくんでも、本当のろっくんではないと知っているかのようで。

 やっぱりみうには全部見透かされていたのかな……。
 中身が私だと気付いていたから断った? それともろっくんだとしても断ってた?
 でも私はみうを見ると心臓がバクバクして……この気持ちに嘘は付けない。

 "ろっくんの"気持ちではないとしても……私自身のこの気持ちは嘘なんかじゃない。


「みー……ろっくん」

 私が教室へ戻ると、心配そうな顔をしたろっくんが迎えてくれました。

「みうにね、言われたの……その気持ちは嘘だから受け取れないって」
「嘘の気持ち……みうちゃんを好きになっちゃったのは本当だよね?」
「うん、嘘なんかじゃないもん」
「でも今の姿だと……」

「やっぱりみうが言ってたのは、そういう事だったのかな……」

 私がろっくんの気持ちを語ってみうに告白をした、みうにはそのようにしか見えなかったと言う事なのかな……。
 でもこの気持ちは抑えられないし、どうしようもなかったんだもの。

「……帰ろっか」
「……うん」


「これで良かったんだよね……」

「みうちゃーーーん」
「あれ、未来ちゃん、どうしたの?」
「今日は部活が無くてね、それとみうちゃんちの方向に用があってさ」
「あ、そうなんだ。じゃあ一緒に帰ろうか」

「って……みうちゃんどうしたの!? 涙で顔がぐしゃぐしゃじゃない!」
「あ、あーこれは……べ、別に何でも無いんだよ?」
「そういえばいつもおねえちゃんと一緒だよね? 喧嘩でもした?」
「違うの、何でも無いから大丈夫なの」

「うぅっ、でも普段元気なみうちゃんが……そうだ。何かあったら久美おねえちゃんに相談して?」
「相談……うん、ありがとう。でも本当に大丈夫だから」
「で、でも……凄い寂しそうなみうちゃんの姿が私の中には見えるの」

「……えっ? 未来ちゃん、今何て」
「えっ、えーっと! 今何か言ったっけ!?」

(未来ちゃん……未来ちゃんってもしかして)

「あ、私こっちに用があるからここでばいばいだね。それじゃあまた明日」
「うん、ばいばい未来ちゃん」
「うん、また明日ね」

「行っちゃった……それにしても未来ちゃんったらさっきの発言……もしかしたら未来ちゃんも……私と同じで……でも考え過ぎかな、まさかそんな事がそうそうあるなんて訳は……。はぁ……これからどうしよう、どうすればいいんだろう。これで良かった筈なのに……本当に良かったのか分からない。誰かが救われても誰かしらが傷付く、全員報われるなんてないのかな。本当にどうすればいいんだろうね……私、良く分からないよ。もうこのままお別れするしかないのかな……そんなの寂しいよ」


「ただいま……」
「おかえり、みう」
「ねえおねえちゃん、ちょっとお話があるの。時間いい?」
「お話? うん、いいけど」

「みう、もう壊れちゃいそうだよ……」

 家に帰って来るなり、みうちゃんはそんな事を言い出したのです。
 まさかみうちゃん……僕達の秘密に気付いちゃったからおかしくなってしまったの!?

「あ、言っとくけど別にみうは正常、だからね?」
「えっ!? あ、うん、それなら良かったけど……」

 何だかまるで考えている事を見透かされたかのように、みうちゃんからの返答がありました。

「とりあえずお部屋で話そ? 着替えておいで」
「うん……ちょっと待っててね」


『コンコン』
「おねえちゃん、入るよ?」
「うん、どうぞ」

 着替え終わったみうちゃんが、みーちゃんのお部屋へとやって来ました。

「それでお話って?」
「うん、例えば……もし例えば、の話だよ。自分のやっている事が良かったのか分からなくて……そういう場合、おねえちゃんならどうすればいいと思う?」
「うーん……そうだね、自分の事を信じるのみかな?」
「自分の事を信じる……そういえばおにいちゃんも同じ事言ってたよね」

「えっ、そ、そういえばそうだったかな……」

「それでね、おねえちゃん。例えどれだけベストを尽くしても、誰かしらが傷付くかもしれないの。みうの行動によってね……それでも自分が正しいと思えば、それは本当に良いのかな?」

「誰かが傷付くのはあんまり感心できないけど……でもみうはそれが正しいと思うんだよね?」
「うん、正しいと思うし、それがベストでどうにもならないと思う……」

「ならばやっぱり自分を信じるしかないと思うよ。自分が正しいと自信を持って。正しいかどうかなんて周りが決められる事じゃない、自分自身が決める事だもん」

「……うん、そうだよね。みう、自分を信じる事にするよ。ありがとう、おにいちゃん」
「うん、また何かあったら相談してね……えっ、おにいちゃん?」

 みうちゃんはお話を終えると、自分のお部屋へと戻って行ってしまいました。
 今確かに「おにいちゃん」って言ったよね……?

 やっぱりみうちゃんは僕達の事には完全に気付いていて……。


「自分が正しいと思って信じる……か。おにいちゃんが良く言ってたよね。みうもそんな優しいおにいちゃんの事が好きになった。とても大好きだった。でもおねえちゃんの気持ちを考えると……みうはおねえちゃんに幸せになって欲しい。みうなんかがおにいちゃんとくっ付いちゃうのはダメだもん……。おねえちゃんを悲しませちゃうだけなんだもん……もう1人の私、居るんでしょ? 知ってるんだよ。出て来てよ」

(みう……ちゃん!? 私の事……気付いてたの!?)
「うん、物心付いた時からずっとあなたの事、分かってたよ」
(そうだったの……てっきり私は気付かれてないものかと思って、バレないようにしてたのに)

「私も最初は中に誰かが居る、と知ってずっと不思議に思ってたけどね……でももう慣れたよ。同じ身体を共有してるんだもの。私とあなたは一心同体も同然よ。だからこそあなたにお願いがあるの。あなたは私と一心同体も同然よ。だからあんな考えは止めて……」

(みう……その事も分かっていたの?)
「最初から全部分かっていたよ。あなたが表に出て喋っていた事、全部頭に入ってるもの」
(そうだったんだね……じゃあ私の考えている事や思っている事も?)
「勿論ね、全部分かってるんだよ。あなたの考えている事や、やろうとしている事」

(ならば尚更……このままにしておくと、みうちゃんはどうなるか分かってるよね?)
「私はどうなったっていい。傷付くのならばそれは私だけでいい。他の誰かが傷付く事もしなくていいし、あなたも辛い思いなんてしなくていい」

(みう……でもどうしてもダメなのよ。それはあなた自身の為にも。あなたは普通の人間。でも私は普通の人間とは少し違う存在なのよ)
「そんなの関係無い。ずっと一緒の身体で生きていた……もう1人の私だもの」

(ありがとう……みうと出会えて良かった。優しいみうと一緒に生きれて良かった。みうの優しさはずっとずっと忘れないよ。例えさよならしてしまっても……)
「だめ、さよならなんてそんなの私が許さない」
(でもそうしないとみうが……)

「私なんてどうなってもいいから……」

『コンコン』
「みう? どうしたの、大丈夫? 入るよ」
「あ、おねえちゃん。どうぞ……」

「どうしたの? ぶつぶつ1人で何か言ってたみたいだから……大丈夫かな、と思って様子を見に来たのだけど」
「ん、みうは大丈夫だよ。ごめんねっ、心配掛けて」
「うん、大丈夫ならいいけど」

「ねえおねえちゃん」
「なーに?」
「……ごめんね、おねえちゃん達に言えないでいるのは……本当はみうの方なんだよ」

「みう? どうしたの!?」
「あれっ、何で涙が出てくるかな……別に悲しい訳でもないのに。おねえちゃん達はみうに本当の事を言えなくて申し訳ないと思ってるみたいだけど……本当の事を言えずに申し訳なく思ってるのはみうの方も一緒なんだよ……ぐすっ」

「みう……おねえちゃん達に何か言えずにいる事があるの?」
「でもみう決めたもん……自分を信じる、明日2人にきちんとお話するから……ぐすっ」
「よしよし、それでいいんだよみう……もう泣かなくていいんだよ」

「おにいちゃん、おねえちゃん……うわぁーーーーーーん」

 突然大泣きしてしまったみうちゃんを目の当たりにして……。
 僕はこれ以上何も言葉を掛ける事ができませんでした。

 でもみうちゃんは明日、僕達にきちんとお話をすると言いました。
 一体何をお話するのかは今はまだ分からないけれど……きっとみうちゃんなりに出した答えなんだ。
 もしかしたら僕達の秘密の事? それとも全然違う別の事……?

 分からないけれど今はどうだっていい、そんな事は明日になれば分かるんだ。
 それよりも今は……みうちゃんを宥める事の方が大事だもの。

「うわぁーーーーーーーん」
「よしよし、みうちゃん」

 僕はみうちゃんが落ち着くまで、みうちゃんの側に付いていました。
 お姉ちゃんの胸の中で泣きじゃくるみうちゃん、しばらくみうちゃんの涙は止まりませんでした。


 そして次の日の朝。
 いつも通り家事を済ませるみうちゃんに少し申し訳ないと思いつつ、僕は先に学園へ向かいます。

「おはよ……」
「おはようろっくん、元気だそ?」

 通学路で合流するなり、みーちゃんはとても元気が無いようでした。
 昨日のみうちゃんとのやり取りをまだ引きずっているのだろう。

「うん、ありがと……」
「そういえばさ、昨日こんな事があって」
「うん、何?」

 僕は昨日の家での出来事をみーちゃんにお話しました。
 みうちゃんが僕に色々訊いてきた事、そして大泣きしてしまった事。
 妹の事だし、お姉ちゃんであるみーちゃんは当然知っておかないと。

「なるほど……じゃあみうは、今日何か私達にお話をするんだね?」
「うん、そうみたい。みうちゃんも色々と気持ちがいっぱいいっぱいだったみたいで」

「みう……一体私達に何をお話するのだろう? やっぱり私達の事なのかなぁ?」
「さぁ……なんだろう」
「……きっとそのうち分かるよね。みうだって頑張ってるみたいだし……落ち込んでちゃダメだよね」

 何だかみーちゃんにいつもの元気が戻った、ような気がしました。

「おはよう」
「あ、みう。おはよう」
「おはよう……」

 家事を済ませて追い付いて来たようで、みうちゃんがやって来ました。
 何だかみーちゃんはとても気まずそう、やはり昨日の一件があったからかな……。

「おねえちゃん、そんなに警戒しないで? 大丈夫だから……」
「えっ、私?」

 違う……よね、今のは僕に言ったんじゃないよね?

「大丈夫、今日きちんと全部お話するから」
「「う、うん……」」

「放課後、教室に来るからね」

 そう言い残して、みうちゃんは先に駆け足で学園へ向かってしまいました。

「みう……今日も1人で……もう前の時のようには戻れないのかな。私、本当はおねえちゃんなのに」
「みーちゃん……大丈夫だよ、みうちゃんを信じよ? みうちゃんはそんな妹じゃないでしょ?」
「う、うん……そうだよね、放課後何かお話するみたいだし」

 放課後みうちゃんが何をお話するのか、そしてどうなってしまうのか。
 僕にはまだ分かりません、でもみーちゃんの為にも……みうちゃんを信じるしかないのです。
 自分が正しいと思う事を信じればいい、ならば僕はみうちゃんを信じたいのです。

「うん、自分が正しいと思う事を信じればいいんだよ」


「みうちゃん、おはよ」
「あれ、未来ちゃん。おはよ、今日は早いんだね」
「今日日直なんだ、だから朝の準備で少し早めに来たんだ」
「へー、いつもは未来ちゃんったらギリギリなのにね」

「もうみうちゃんったら……ところでさ、みうちゃん」
「何? 未来ちゃん」
「少しすっきりした? 昨日の迷いや寂しさが何だか減ってるみたいだったから」

「……未来ちゃんには敵わないね。まるで私の事、見透かされてるみたい」
「あら、本当にそうかもしれないよ?」

「ねえ未来ちゃん、もしものお話だよ。自分の中にもう1人自分が居たとして……その子が困っていたとするよ、だったら未来ちゃんはどうする?」

「えーと……もう1人の未宇ちゃんの事かな?」

「えっ……未来ちゃん、今何て」
「あ、気にしないで。時々みうちゃんの中に見えるような気がするだけなんだ。何だか昔のお友達な気がして……ただ私が勝手に懐かしいと思っていただけだから」

(未来ちゃんってやっぱり……もし間違ってたら……いや、でも自分が正しいと思えばそれを信じればいいんだ。未来ちゃんにはきちんと、確認をしておいた方がいいのかもしれない……)

「ねえ未来ちゃん」
「なーに? みうちゃん」

「未来ちゃんってさ……未来ちゃんは何者なの?」


 お昼休みの時間、いつものように僕とみーちゃんは購買部へ来てました。
 そしてパンを買っていると、後からやって来たみうちゃんの姿を見つけたのですが。

 今日のみうちゃんは未来ちゃんと一緒だったのです。

「あ、おねえちゃん達。今日は未来ちゃんと一緒にお昼するからごめんね」
「こんにちは、いつもお弁当なんですけど、今日は忘れちゃったから購買に来てみました」
「そういう訳だからさ、行って来るね」

「うん、行ってらっしゃい」

 みーちゃんの一件があるから……みうちゃんに「一緒に食べよう」とは言いづらかったです。
 みうちゃんも普段は未来ちゃんと一緒にお昼を食べる機会が無いようだし、たまにはあんな感じでお友達同士一緒に食べるのも良いものなのかもしれないです。

「……みうは何だか元気になってたみたい」
「うん、そうだね。みうちゃんはそんな弱い子じゃないもんね」

「私だって……早く元気出さなくちゃね」

 外へ消えて行く2人の後ろ姿を見ながら……みーちゃんは言いました。


「やっぱりね、私も薄々思ってはいたんだよ?」
「未来ちゃんがまさかそんな事情だったとはね……ねえ、みうはどうすればいいのだろう?」

「そうだね……正直に全てを話した上でどうにか止めるべき、かな? みうちゃんはこのままさよならでもいいの? 誰かが傷付いたままでもいいの?」
「良くないしそんなの嫌だよ」

「ならば自分に自信を持って、思った通りにしないと……後悔するだけで終わるよ?」
「うん、そうだよね……」
「それにさ、私もみうちゃんに確認が取れたからさ……いざとなったら力になれるかも♪」
「ありがとう未来ちゃん、その時が来たらお願いできるかな?」
「任せて! だって私は、その為にみうちゃんの側に居るんだもん……」

「ありがとう未来ちゃん。みう、未来ちゃんに会えて本当に嬉しいよ」
「それは私だって同じよ、みうちゃん。あ、お昼食べないと休み時間終わっちゃうね」
「そうだね、とりあえず食べようか」

「みうちゃん焼きそばパンなんだ? いつもはメロンパンって言ってなかったっけ」
「うん、今日はちょっとね……何だか久しぶりに食べたくなっちゃって」
「甘い物が大好きなみうちゃんが珍しいね」

「焼きそばパンを食べるとね、何だか心が温かくなるんだ。焼きそばパンはみうの大好きな2人に取っての思い出だもの」

「へぇー、そうなんだ。何かあったの?」
「うん、昔にこんな事があってね。あれはまだみうが1年生の頃……」


「はぁはぁ……つかれたねみーちゃん」
「こんな遠くまで来ちゃったね……」
「でもこういうのって、何だかとってもわくわくするよね!」

「もうろっくんったらやんちゃなんだから……ここ一体どこなのよー」
「さあどこなんだろう、そういえばまわりももう暗くなってきてる」

「どうするの? みい子たちおうちに帰れなくなっちゃったんじゃ……」
「うーん、おなかも空いたね……どうしよっか」

「もうっ、ろっくんったらこんな時にのんきなんだからー……ろっくんがだいじょうぶって言うからみい子、となり町まで着いて来たんだよ!? なのにまいごになっちゃってどこにいるのかも分からないだなんて……」

「ねえねえ、きみたちどうしたの?」
「あなたは?」
「わたし? わたしはひかりっていうの! こまっている人を見るとなんだかほうっておけなくて……」

「光ちゃんって言うんだ? とってもすてきなお名前だね!」
「ぼく六って言うの、この子はみーちゃ……みい子ちゃん、よろしくね!」

「うん、2人ともよろしく! それで……きみたちどうしたのかな? こまってるみたいだけど」
「うん、実はね……みい子たち、おとなりの町から来たの」
「でも道にまよっちゃって、ここがどこか分からなくなっちゃって」

「そうなの、こまったわねー……」
「光ちゃんはこの町の子なの?」
「うん。わたしね、大きくなったらまほーしょうじょになって町のみんなをたすけるのがゆめなんだ! だからきょうもこうして、じしゅてきに町のパトロールをしてたんだー。そしたらこまっているきみたちを見つけたんだー」

「まほうしょーじょ!? へぇーすごいねーえらいねー! 光ちゃん何年生!?」
「わたし、小学1年生だよ」
「へぇー、うちのみうと同じだね!」

「みう……ちゃん? みい子ちゃんのいもうとさんなの?」
「うん、そうだよ。とーってもかわいい妹なの!」
「へぇー、そうなんだー。わたしもっともっとみうちゃうのおはなしききたいな!」
「うん、いいよいいよー! みうったらねーこの前ねー」

「きゃっきゃあははー」
「えへへーそうなんだー」

「あ、あのお二人さん……もり上がり中悪いんだけど」

「ん、あれそういえばろっくんいたんだっけ」
「いたんだっけとかひどいなぁもう……ぼくたちまいごなんだけど」
「あ、そういえばそうだったんだよね……」

「むぅー、せっかくわたしがみい子ちゃんをたのしませようとしてたのにぃ……男の子ってほんとうにデリカシーないのね!」
「えぇー!? ぼ、ぼくが悪いの!?」
「そ、そんなおちこなくても……ちょっとしたじょうだんよ!」

『ぐぅううう……』

「ごめんなさい……って、なにいまの音?」
「ごめん、ぼく……」

「おなかが空いてるのね、わたしのせいできみへこんじゃったみたいだし……わたしのおやつわけてあげるから、これでゆるして?」
「えっ、いいのかな……」
「だってわたしたち、もうおともだちでしょ? ちがうの?」
「そうだよろっくん! せっかくだからもらおうよ!」

「そんな、みーちゃん図々しいよ」

『ぐぅううう……』

「ごめんなさいください」
「あはは、おなかの虫さんはとてもしょうじきさんなんだね」
「みんなでいっしょに食べよっか」
「そうだねー。ここのちかくにこうえんがあるからそこでたべよ!」


「はい、どうぞ!」
「ありがとう、やきそばパンおいしそう」
「みい子やきそばパンって食べるのはじめて、おいしいのかな?」
「とーってもおいしいよ! たべてみて?」

「うん、いただきます……んっ、おいしい!」
「本当においしいね! このやきそばパン」

「光ちゃんはめろんぱん?」
「うん、やきそばパンは2つしかなかったんだ」

「えっ、よかったのかなみい子たちもらっちゃって……」
「いいのいいの! おともだちでしょ!?」
「本当にありがとう光ちゃん!」

「みんなでいっしょに食べてるからかな、やきそばパンってとってもおいしーい」
「うん、とってもおいしいよー」
「わたしのめろんぱんもおいしいー」

「「「あははははー」」」

「ごちそうさまーやきそばパンおいしかったねー」
「うん、とってもおいしかったー」
「2人ともよろこんでくれてよかったー」

「あ、おねーちゃんおにーちゃんー! いたいたよかったー」
「みう!? どうしてこんな所に!?」
「おねーちゃんたちおそいから。みう、さがしてたんだよ!? そしたらなんかしらないけど、みうったらいつのまにかこんなところにいて……もしかしたらだれかがおねえちゃんたちのところへみちびいてくれたのかな?」

「あなたがみうちゃんなの!?」
「あ、えーっと……おねーちゃんだれー?」
「この子光ちゃんって言うの! こまってるみい子たちを助けてくれて」
「うん、それでおいしいパンまでくれたんだよ!」
「そうだったんだ、ひかりちゃんありがと!」

『ぐぅう……』
「あ、みうったらやだ……」
「あはは、みうちゃんもおなかが空いてるんだね。わたしののこってるパンあげるからたべなよ!」
「えっ、そんなみうまで……いいのかな?」
「いいんだよ! だってわたしとみうちゃんももうおともだちでしょ!?」

「わぁーありがとうー!」

「光ちゃんはみうちゃんと同じ1年生なんだってー」
「えー? そうなんだー。でも学校ちがうみたいだねー」
「うん、わたしはこの町にあるよもぎ小学校にいってるんだー。みうちゃんは?」
「みうはねー、ときわたりがくえんってところのしょとうぶなんだよ」

「ときわたりがくえん……それってもしかして! めいりちゃんちのほうにあるあのがくえん?」
「めいりちゃんって、ひかりちゃんのおともだちさん?」
「うん、小さいころからずっといっしょの女の子なんだー!」

「へぇー、こんどみうもあってみたいなー」
「みんなでいっしょにあえるといいね♪」

「さて、ときわたりがくえんときいてだいたいほうこうはわかったから……わたしについてきて! きっと3人とももとの町へかえれるからね!」

「わぁー光ちゃんありがとー!」
「よかったねおにーちゃんおねーちゃん!」
「うん、帰れるんだ……よかったー!」


「そんな事があったんだねー」
「うん、それからみうはめろんぱんが大好きになっちゃってね。おにいちゃんとおねえちゃんはめろんぱんではなく、焼きそばパンを食べたってみうには言わなかったけど。でも光ちゃんに後で聞いたから実はみうも知ってたんだー。何だかあの時の2人のような気持ちになれるかな、と思ってね……」

「へぇー、それで今日は焼きそばパンなんだね。たまにはそういうのもいいよね?」
「うん、いつもめろんぱんばかりだからたまにはこういうのもね」
「そうだね。ねえねえ、ところでみうちゃんが知らない隣町なのにおねえちゃんの元へ行けたのって」
「うん、きっとそういう事……かな。もう1人の私が導いてくれたのだと思う」

「みうちゃんはずっと気付いていたんだね」
「うん、私の中に居るもう1人の私……それは私同然だもの」

「お腹いっぱいー、何だかみう、元気出てきたよ。学校が終わったら……自分を信じておにいちゃんとおねえちゃんにお話するよ」
「うん、みうちゃん……頑張ってね」

「ありがとう未来ちゃん」


 そして放課後となりました。

「みうちゃん来るのかな?」
「んっ、きっと来る筈だよね……」

「おにいちゃん、おねえちゃん、授業終わったよ」

 みうちゃんが教室に来て、僕達2人を迎えに来ました。

「じゃあ行こっか……きちんとお話するからね」
「うん、ろっくん準備はできてる?」
「うん、大丈夫だよ」

「ねえねえ、みいちゃんみいちゃん」
「くーちゃん、どうしたの?」

 僕達が3人で教室を出ようとすると……突然部活に行く前のくーちゃんが声を掛けて来ました。

「妹さんとは仲直りできたのかな?」

 あ、そういえばくーちゃんって……僕が少しの間元気無かったりしていたから。
 くーちゃんに取っては姉妹が喧嘩したのかな、と思っていたのかもしれないね。

「うん、大丈夫。まあ喧嘩とは違うけど……ありがとう、くーちゃん」
「皆仲良しで元通りが1番だよね、良かった良かったー。じゃああたし部活行くね、また明日!」
「うん、また明日ー」

(未来ちゃんのおねえさん……久美さんには、本当の事は黙っておいた方がいいのかな……未来ちゃんの本当の事、知らない方がおねえさんに取っては幸せなのだろうか。でもこの事は……もし話すべき事であるならば、未来ちゃんが自ら話すだろうし大丈夫かな)

「みうちゃん?」
「あっ、ごめんね。少し考え事してたの」
「いいよいいよ、何かお話するようだし、考えるべき事がいっぱいあったのかな」

「おねえちゃんは……こんな時でもみうをちゃん付けで呼んでくれるんだね」
「あっ……そ、それは」

「2人共もう気付いてるでしょ? その事も兼ねてお話するから……大丈夫。みうは……私はね、もう誰にも偽りたくなんかないし、誰も傷付けたくないんだ。自分の話すべき選択が正しいと言う事を信じて……おにいちゃんもそう言ってくれたものね」

「昨日"お姉ちゃんが"した筈のお話だよね……みう、やっぱり私達の事」
「うん、ごめんね………行こっか」

 僕達はみうちゃんに連れられて……いつもの中庭へと行きました。
 ここでみうちゃんは何を話すのか、僕達はどうなってしまうのだろうか。
 それは今の僕にはまだ分からないけれど、でも不安な気持ちは一切無い。

 だってこれからすぐ分かる事だし、それに何よりも第一にみうちゃんを信じたい。
 何故みうちゃんは僕達2人の事に気付いていたとして……それを黙っていたのか。
 そしてみうちゃんが話せずにいた事って、果たしてその事だけなのだろうか。

 みうちゃんの昨日の様子的に、どうも他にも何かあるような気がする。
 でも僕達は……只々みうちゃんを信じるのみなんだ。

 例えみうちゃんが何を話したとしても、僕達の運命がどうなったとしても。
 僕達はみうちゃんを信じればいいだけ、後はなるようになるんだものね。

 そして人気の無いいつもの中庭へと着いて……みうちゃんは僕達2人にお話を始めました。


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  • 最終更新:2018-02-10 00:38:57

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